前回の続きです。
どうやら私は「サイキック(霊能者)」のオンラインサービスを、あまりわかっていなかったようです。日本ではどうか知りませんが、アメリカの顧客が何を求めているかが、調査の結果、ちょっと見えてきました。
あるインターネット掲示板の「I found a great psychic!(すごい霊能者みつけた!)」という書き込みに、すごい数のレスが付いていましたので、それを読んでみたのです。ある顧客に対して、そのすごい霊能者は開口一番、こう言ったそうです。
「Who's Michael?(マイケルって誰?)」
その顧客さんの恋人の名が、まさにマイケル。一気にテンションが上がり、キャー、と声を上げると、その霊能者さんは一言、
「結婚するわよ。彼と」
顧客さんのテンションは、さらに爆上がり。それに対して多くの人が同意や賞賛のコメントを寄せていました。
でも、よく考えてみると、アメリカに住む誰もが、マイケルという人が一人は身近にいるでしょう。私にも、何人かのマイケルがいます(そのうちの一人は"師匠")。マイケルと言えば気になるマイケルが心に浮かび、
「ええーっ!? どうしてわかったんですか!? 実は……」
となるに違いありません。この手法はデイヴィッドやスティーブでも、いけるでしょう。「そんな人は身近にいない」と顧客が言えば、「じゃあ未来に出会う人だわ」と話を続ければいい。ただ、近年の「アメリカの赤ちゃん名付けランキング」の男児1位はリアムらしいので、20年後、30年後には「リアムって誰?」になっているかもしれません。
サイキック・リーディングを「言葉でちょっとしたトリックのようなものを使いながら、潜在意識をくすぐるエンターテインメント」と捉えるならば、それはそれで、なかなかよい。のめり込まずに、いろいろな可能性を楽しめばよいと思います。
ダニエルさんは、そのような手法とは無縁でした。私が人間関係で悩んだ時に、彼はこう言ったのです。
「相手には、相手がすべきことがある。君はバウンダリー(境界線)を守れ」
自分と他人、自分と何かの間を線引きするのがバウンダリー。ヒーリングサイエンスの授業では、しょっちゅう出てくる用語です。しかし、当時の私はBBSHに入学することさえ、まだ思いついていませんでした。
また、私はダニエルさんのそうした発言が、他の人々がサイキックに期待する内容とはかけ離れていることにも気づかないままでした。「どこにでもいそうな、トレーナーにジーンズ姿のお兄ちゃん」のような彼と、たまに打ち明け話をする感覚でいたのです。
話題といえば、女性どうしの嫉妬やマウントの取り合いに対する嘆きとか。ダニエルさんは中立的な立場から、「それは悲しいことだね」「そういうことをする人こそ、悲しくて悩みの多い人なんだよ」などと言ってくれて、私の心はずいぶんと穏やかになりました。
時が経ち、私はBBSHへの入学を決めました。そのことを話して「4年間、うまくいくかしら?」と尋ねると、彼はこう答えました。
「うまくいく。ただ、3年生から4年生に進級する時に、間が空くかもしれない」
それを聞いた私は「ああ、やっぱりそうなのか。そのあたりで学費の支払いが苦しくなりそうだもんなぁ」と思いました。
それが、ダニエルさんの唯一の予言でした。そして、それは外れました。だって、私は4年間ストレートに、休学せずに卒業できたのですから。
――外れたよねぇ。外れたよ。彼の唯一の予言は、当たらなかった。
休学せずに卒業できたのは嬉しいことです。予言が外れて、よかった。私は昨日まで、ずっとそう思っていました。
――でも、えっ? ちょっと待てよ。
私がBBSHの3年生から4年生に上がる前に起きたこと。それは、
――完璧な優等生を演じるのをやめるために、DLM(宿題)をわざとサボった。
それは私にとって、本当に恐ろしいことでした。今でも、その時のことは強烈に覚えています。DLMの提出が期限に間に合わない時は、必ず先生に連絡するのが規則。そんなことは、翻訳業界・出版業界を長く続けている私には、当然すぎるほど当然のことでした。
――私は締め切りを守る女なのよ。当然だわ。すごいでしょう。
その自負が私をひどく苦しめたのが、3年生の後半でした。ハラヒーリングは難なく合格。なのに「オーラ次元が貧弱」と先生から注意され、私は激怒してめちゃくちゃな心境になりました。
――何もかも、やめてやる。
何もかもやめ、すべきことを無責任に放り出しても、まだ世界は存在し、私もそこに存在するのだということを確かめるために、私はDLMを下書きのままで放置しました。期限から1日過ぎ、2日過ぎ、やがて1週間が過ぎても、私は先生に連絡さえせず、ただ時が過ぎるのに耐えました。
そして、そのままの状態でフロリダに行きました。現地での授業の初日までに宿題を出さないと、教室に入れてもらえません。ホテルに到着してから、私は期限を無視した理由を添えて、ようやくそれを清書して提出しました。あの時に私が体験したことこそ、「間が空く」という言葉がぴったりです。
――ダニエルさんが言っていたのは、そういうことなんだろうか?
「あなたの質問を聞くことから始め、それから、僕に見えたことをあなたに伝えます」
2016年の彼の心の目に、2019年のふてくされた私の姿が見えていたのなら、それは私にとって、とんでもなく偉大なことに思えてきます。
――なんなんだ、この人は。宇宙なのか?
興味本位と言われても反論しづらい「サイキック依頼」。それが今、広大な宇宙で私が体験している時間軸を過去へ、未来へと何度も行き来する意識の旅をもたらしたのでした。
そして私には、ダニエルさんとの出会いも宇宙のはからいで正確に動き、起きたことではないか、という考えも芽生えています。その理由は、以前に書いた、あのこと。
彼のSNSのアカウントに示された、小さな情報です。
続きます。