BBSHは霊能者を養成するスクールではありませんが、通常の感覚では見えないものを見て、聞こえないものを聞くことが多いですから、やはり、その不思議な能力に心を惹かれる人はたくさんいます。私もその一人でした。
入学前は、たぶん、私は今では想像もつかないほどオカルト好きだったかもしれません。「すごく当たるサイキック(霊能者)がいる」と友人から聞いて、一時期はまったことがあります。zoomなどなかった時代ですが、インターネットや電話でアメリカの霊能者たちに相談できるサービスがあったのです。
「Her predictions are pretty accurate!(彼女の予言はかなり正確!)」といったレビューが目白押しの人気サイキックたちがずらりと並んでいましたが、友人の体験談も総合すると、まあ、だいたいがインチキか、それに近いもののように思えました。
でも、そうした不確実なものの中に、紛れもない真実の言葉がキラリと光ることがありました。真実の言葉は、何年経っても記憶に残ります。その言葉を発した霊能者の名前と共に。
そういうわけで、私はなぜか突然、ある霊能者さんのことを思い出して、アメリカのサイトを検索しました。仮に名前を「ダニエルさん」とします。
ダニエルさんのサイトはまだありましたが、相談を受け付けているんだか、いないんだか、わからない状態でした。どうしたんだろう? ますます気になって、彼のフルネームをgoogleで検索すると、わずかですが情報を得ることができました。
その情報とは、クレームでした。
「偽物のサイキック」「俺の20ドルを返せ」「嘘ばかり」「予言は全部ハズレ」――そんな怒りの言葉が並びます。なぜか、私の脳裏では、こうした苦情をネットに書き込んでいる人たちが、どんな心境で何をダニエルさんに尋ねたのかが、なんとなくわかりました。そして、何をもって「予言の当たりはずれ」と捉えているのかも。
クレームに混じって、彼の消息を疑問に思う投稿もありました。「最近誰か依頼した?」「私が最後に依頼したのは数年前よ」といった投稿が。どうやら、奥さんを亡くしてから、彼はサイキックの仕事をほとんどしなくなったようでした。
「霊能者である前に人間だものね。心が落ち着くまで休めばいいよ」というような思いやりの投稿もあり、彼の人気が窺えます。しばらく復帰は難しいのかな、と思いながら読み進めると、比較的新しい日付のところに、
「ダニエルは奥さんのところへ行ったよ。今は彼女と一緒に、別の次元にいる」
――ダニエルさんは、亡くなった?!
私は軽いパニックに陥りました。つい先日の、ひよこ隊の「ばらのように ねむれ」という言葉が心に覆いかぶさってきます。私に真実の言葉を放ってくれたダニエルさんの存在が、激しい閃光のように感じられました。
――いや、亡くなったといっても、インターネットの掲示板の投稿でしかないし。
真偽は定かではありません。彼のサイトはまだある。メールを送信できるようにも、一応は、なっている。でも……でも……
――ダニエルさん、どこにいるの?
ふと、私は自分が何をしようとしているかに気づいて、驚きました。それは、霊能者の顧客だった私が、逆に、霊能者を霊視しようとすることだったからです。
彼に騙されたと憤っている人々や、その憤りの投稿を黙って読んだ人々の中にも、私と似たようなことをしている人たちがいるのではないかと思います。彼らの姿は見えないけれど、きっと全米に、かなりの人数がいるはずです。霊体になった霊能者を探して、たとえわずかでも魂を震わせる顧客たちがいるとしたら、それはとても尊いことだと私は思います。
そして今、私は彼のために祈ることもできる。ダニエルさんが肉体として生きていても、そうでなくても、です。
ダニエルさんがまだ生きていることを望む気持ちも、私には、たくさんあります。ですから、生きているエリアとそうでないエリアの中間ぐらいで、しばらく彼を探してみようと思います。そして、彼が伝えようとした真実も。
真実のかけらは、何度でも噛みしめることができます。