前回の続きです。
バレンタインデーの今日も、オンラインのサイキック(霊能者)紹介サイトは賑わっているのでしょうか。何年ぶりかでアメリカのサイトを見てみると、大ベテランの女性がいまだに首位を独走していたりして、すごいものだなと思います。
失礼ながら、ランキング1位(?)の方の年収をこっそり試算してみました。サイト運営会社の取り分を差し引いても、日本円にして年収2千万円は下りません。アメリカ合衆国の人口は昨年1月現在でも3億3006万人(外務省データ)。英語圏でのビジネスは、やはり規模が大きそうです。
ダニエルさんのことはさておき、他のサイキックの人たちの顔写真や、顧客レビューを見てみました。
「She's Number One!(彼女はナンバーワンだ!)」「Awesome(すごい)」「Good reading(よいリーディングだった)」といった、ほんまかいな、と思われるレビューが大多数。それに混じって、悪いレビューがたまにある。そこに、人の心の複雑さがまざまざと表れていました。たとえば、
「質問に答えてくれず、逆に私に質問ばかり。挙句の果てに『それはあなた次第です』と言われてしまった。これじゃあ意味がないわ」
人生を切り開くのはあなた次第だ、という至極まともな助言が、星1つで酷評されたりしています。
――くっ。これは……厳しい。
悩んでサイキックに助けを求める人たちは、自分で人生を切り開く力さえ失っていることが多いでしょう。すべては自分次第であることに間違いはないですが、それをいかに、うまく伝えていくかにサイキックの実力や感性が表れるのかもしれません。
「ヒーラーはサイキックではありません」と私たちはよく言いますが、サイキックはヒーラーでもあることが求められているのでしょうか。せっかくオンラインでサービスを始めても、顧客の心に希望の灯をともせなければ、
「予言、全然当たりませんでした。返金してほしい!」
というような感想が返ってきてしまいます。
さて、ダニエルさんはどうだったか。
私は勝手に、彼のことをサイキックだと思っていましたが、実はそうではなかったのかもしれません。なぜなら彼の自己紹介文は、他のサイキックたちとはかなり違っていたからです。
「僕はあなたの質問を聞くことから始め、それから、僕に見えることをあなたに伝えます。僕が大切にしているのは、思いやりです。僕が顧客ならこのように扱ってもらいたい、と思うことを、あなたに対しておこないます」
僕に見えること?
それは「高確率で的中する未来予想図」とは限らない。ただ、彼に見えること、というだけです。
――ダニエルさん、「霊視します」なんて一言もいってない。
つまりそれは、顧客に「バレンタインデーに彼女と会えますか?」と尋ねられて、ダニエルさんの心の目に仔豚が見えたら「仔豚が見えます」と言いますよ、という意味です。
ただし、「仔豚が見える」とそのまま伝えたら、思いやりに欠けるかもしれません。そこで、「僕が顧客ならこのように扱ってもらいたい」ということを、彼は、した。
――どういうふうに?
私は記憶の片隅にある、彼の言葉の断片や声の響きを思い出しては反芻しました。
そのプロセスをたどるうちに、ますます、彼は「サイキックではないのに、どういうわけかサイキックとして活動することになった人」のように思えてきました。そもそも本人に未来を当てる気がなさそうです。
私は、そんな彼の人柄に惹かれたのでしょうか? 彼とは何度も電話やメールでやりとりをしましたが、「きみの未来はこうなる」「いつ、どこで、こういうことが起きる」といった予測はほとんど聞いたことがありません。
それでも私は、彼と話すのが好きだった。なぜ?
ただ、一つだけ、彼はある予言をしてくれました。
それは、今思い返すと、恐ろしいほどドンズバに、ある時空の中で起きる一つの出来事を言い当てていたのです。
続きます。