新しい自分の作り方

BHSバーバラブレナンヒーリングサイエンス認定プラクティショナー/シカ・マッケンジーのブログ

守護天使ありす

生前、私はその人をありすと呼ぶことはありませんでした。何と呼べばいいかと問われて「ありす」と彼が言った時、当時生意気な小娘だった私は内心、なんで男なのにアリスなのよ、と思ったからです。

 

当時、羽振りのよかった彼はスポーツカーに乗り、私の女友だちを同乗させて颯爽と走り去り、その勢いで彼女と同棲するようになりました。そういうところも私は気に食わなかったかもしれません。

 

年月が経ち、世相が変わり、不景気の波に流されるかのようにして彼は家族と疎遠になり、会社を失い、持ち家も彼女も失いました。最後に彼を見たのは、団地の一室です。

 

「これを見て。ありすが作り出したものが、これよ」

 

同棲を解消しようとしていた彼女がドアの隙間を指さすと、彼の部屋の状態が窺えました。たたんだ会社から引き揚げた商品の在庫が山のように積み上げられ、わずかに空いたスペースに彼の寝床。

 

まるで谷底のようなそのスペースで、彼は悪びれるふうもなく、淡々としています。その淡々とした様子が、彼女をさらに不満にさせたのでした。「どうにかしてよ、なんとかしなさいよ」。彼女は何度も話し合いを試みましたが、彼を動かすことはできませんでした。

 

その後、団地で一人暮らしをしていたありすは重い病気にかかり、誰にも知られず世を去りました。これは先日、少しブログに書かせて頂いた件です。彼の死が発見されたのは、その団地を出て遠いところに引っ越した、私の友人である彼女が不審に思ったことがきっかけでした。

 

私は潜在的に、ずいぶんショックを受けたのだと思います。知らせを受けた翌日は疲れて何もできず、それも無理のないことだと思い休みました。

 

ですので、数日後に突然、天から彼の声が聞こえたかのように感じた時は驚きました。まさか、彼の方から私にコンタクトがあるとは思っていなかったからです。

 

「まあ、普通ですわ」

 

彼はそう言いました。普通って何?

 

「そら、しんどくなかったと言ったらウソになりますけども…そこを通り抜けたら、まあ、こんなもんですわ。いたって普通ですわ」

 

――彼にとっては、死後の世界は普通…。

 

もし、それを霊媒師が伝えてきたとしたら、なんとも拍子抜けしそうです。苦しいとか、寂しいとか、ごめんねとか、そういうものは一つもない。それは生前の彼のあり方、生き方でもあったかもしれません。そう気づくと、私は妙に納得しました。

 

彼と同棲していた私の友人は、パーティーや外食が好きな女性でした。私は何枚も写真を見せてもらったことがあります。彼女の隣には、いつも彼がちょこんと座っており、いつも同じ表情でカメラの方を見てほほえんでいました。

 

――守護天使か。

 

彼はただ自分の生き方をし、ただそこに存在し、起こる出来事をすべてそのままに受け入れた。その生き方に彼女が不満を募らせてもイヤな顔ひとつせず「まあ、しょうがありませんな」と言っていたのを、私はかすかに覚えています。

 

――ありす、守護天使やね。

 

天使は人間の意志を持ちません。神の意志のみに従って動きます。

 

「そんな、ええもんですかね僕は。わかりませんけどね。へへへ」

 

霊界にいる彼と話すのは、なかなか心地よいものでした。彼のエッセンスを鮮明に感じることができたからです。いつのまにか、私は彼のことが大好きになっていました。