羽虫に対するリスペクトが生まれるまでの道筋は、私にとってはなかなかドラマチックでした。最初は誰もがするように、それが飛んでいる姿を見て不快になり、ぱちんと叩いて殺し、捨てていました。
この羽虫が室内を飛ぶスピードは、夏場のコバエよりもはるかに遅いです。叩くのはいとも簡単でしたので、羽虫退治はどんどん進みました。その行為にふと疑問を感じたのは、朝、東側の窓の下の床を見た時です。
そこにはいつも2~3匹の羽虫の死骸がありました。自然死です。朝日に向かって飛ぼうとして力尽きたのかもしれません。
――私が叩かなくても、この者たちは長くは生きないんだな。
数日間の短い命。
だったら、急いで叩かなくてもいいではないか。
彼らは自然に寿命をまっとうすればいい。
実際、彼らはそれほど活発に飛び回りはしません。夜になると結構疲れたような感じで床に下りてきて、じっとしています。何を求めてか、ちょこちょこ動いたかと思うと、じっと止まってしばらくすると死んでいた、というケースもたまに見かけました。
こうして私は、一日に10~15件くらいの死と共に暮らすようになりました。