衣替えのためにクローゼットを開閉してふと部屋を見ると、見慣れぬ隊員が壁づたいに姿を現しました。成体です。でかい。
「ちょ、誰?」
思わず声が出ました。大きいとはいえ、ハエトリですから小さいです。私は虫眼鏡を手にとり、隊員の体の模様を確認しました。オスのおにいちゃん隊員ではなく、メスのようです。
「ほんまに、誰なん?」
少し前にC地区にいたおねえちゃん隊員だとは考えられません。それほど立派な体格であり、ラスボスの風格があります。動き方もおっとりしている。クローゼットの扉がバタバタと動いたので、その振動に反応して出てきたのでしょう。
その隊員はゆっくりと天井近くまで上り、閉めた戸棚の扉の隙間を外から覗き込み、また少し歩いては、隙間の中を覗き込みます。
――闇を見ているのか。
それはヒーリングのプラクティショナーも行うことです。二つに分離した、その隙間の闇に深くコンタクトしていくのだと、つい先日の瞑想の時間でも言及されていました。
少し迷ってから、そのラスボス隊員をガラス容器で身柄確保し、お狩り場に移動してもらいました。やはり、おっとりしています。じーっと土を観察した後、隊員はF地区のバスケットの裏へ、ゆっくりと進んでいきました。
今は積極的に狩りをする気分ではないのでしょう。とにかく、幼児隊員たちより頭部が大きく発達していますので、妙に賢そうに見えます。実際に、賢いのでしょう。いろいろと教わりたいと思います。