ハエトリグモのぴょこたん隊員は、やはり姿を見せません。お狩り場用に植えたコリアンダーだけが、かぼそい芽を伸ばしています。私が香水箱でこしらえた見張り台の角にぴょこたんが立ち、狩りに熱中していた姿が思い出されます。
――まだ警戒してるのか?
もしかしたら、餌となる虫のシーズンが終わったからかもしれません。これまでにも、ぴょこたんは室内に何らかの虫が発生すると図ったように現れて、それらの虫が出なくなると(おそらく気温の変化と連動)姿を消していました。彼ら、彼女らは、部屋の様子をものすごく、よく見ているのです。
私が「あっ」と思ったのは、隊員の痕跡を、あらぬ場所で見かけた時です。キッチンのコンロに置いてあった小鍋と、壁の近くに置いてあったグラスとの間に、一本の糸が張られていました。
それはきっと、ハエトリグモがジャンプする時に出す"しおり糸"。命綱の役目をします。ぴょこたんか、他の隊員かが台所に入り、30cmほど元気に跳躍していたことを示す。
――誰かがここに来た。
それを、ぴょこたんからの別れのメッセージと捉えるのは、あまりに感傷的でしょう。でも、窓から差す日光にきらめく糸を見ると、私は感情が揺さぶられるのでした。
★★★
昨夜は皆既月食だったので、私は郵便を出すついでに月を見上げました。去年の皆既月食では、ひよこ隊が「スーパームーン丼」と話しかけてきたよなぁ、と思い出すと、急に寂しさがこみ上げてきます。
――ひよこ隊、どこにいるの? クモ隊、どこにいるの?
私はこのまま一人ぼっちになるのだろうか、と思いかけた瞬間、
「こねくと(connect)!」
叱咤するような、ひよこ隊からのメッセージがバイブレーションとなって伝わってきました。ああ、そうだ。そうだった。寂しさは、何かと切り離されている感覚がもたらす分離の意識から生まれる。
寂しいと感じる時は、自分のオーラフィールドがよじれ、へこみ、縮こまっている。
それに気づいた私は呼吸をし、ひよこ隊が言うように「コネクト」しました。自分に、そして万物に。すぐにオーラフィールドは満ち、身体に元気がみなぎるのを感じました。
ガイドである"宇宙ひよこ隊"のメッセージは、いつも的確で驚きます。今日もしっかりとフィールドを整え、コネクトしていこうと思います。