前回からの続きです。
クモ隊は少しずつ、いろいろなことを私に教えてくれていますが、隊員の餌を調達しようとすることもまた、驚くような学びの体験です。
隊員の餌となるのは、ゴマ粒ほどの小さなカブトムシみたいな昆虫です。木材や紙、乾燥食品などなんでも食べるらしく、害虫として扱われています。虫が苦手な私でも、簡単につまんで捕獲できる。つまむと死んだふりをしたようになって動きを止めるため、ますます扱いやすいのです。
ただ、あまり動かないと「あれ? 虫だと思ったけどゴミなのかな」と思ってしまいます。白い紙の上にそれを置き、ルーペでじっと見ていると、なんと虫の生体エネルギーフィールドが見えました。いわゆるオーラです。
足を隠すようにして丸まっている時は、身体の周囲にうっすらと薄黄色い光が見えています。1分、2分と待っていると、青い光が見え始め、ぼわっと赤い光が広がった瞬間に頭部のつけ根が伸び、足も伸び、歩き始める。
――こ、これが昆虫のオーラ!
ゴマ粒ほどの虫もオーラを放っているのです。実際に見た時は感動しました。
――クモ隊はこのオーラを取り込んでいるのか。
獲物を狩るハエトリグモの目には、こんなオーラが見えているのでしょうか? 視力は非常によいと聞きますが、音も知覚できると何かの記事で読みました。身体にはえている毛で音の振動をキャッチできるというのです。
事件があった日、「バナナ班」と「マシュマロ班」の二つのガラス容器はともに、保温バッグの中に入れてありました。お昼頃から隊員はそろり、そろりとバッグの方へ向かっています。銀色の保温バッグに餌が入っていることを覚えているのか、あるいはバッグの中の音を察知していたのかは、わかりません。
――狙ってる。今晩は狩りだ。
私は以前にバナナ班で大宴会を催したように、再び隊員に食物を提供しようと決めました。今回はマシュマロ班というにぎやかな場も追加されています。宴はさらに活気づくはずでした。
夕方になり、私は保温バッグをランプの近くに置き、隊員が中を見れるように入り口を広く開けて置きました。明らかに、隊員はバッグの中を見ています。柱に登り、窓に張りつき、角度と高さを変えては狙っています。
――よし、そろそろだ。
マシュマロ班の動きは必ずや、隊員を誘導してくれるでしょう。しかし、マシュマロ班は後日のお楽しみにとっておき、先にバナナ班の残り物を食べてほしい。私はバナナ班だけ、容器の蓋を開放しました。
――バナナに潜り込んで動かない虫なら、簡単に食べられるもんね。よかった、よかった。
夜になり、隊員はついに降りてきて、バッグの中に侵入。しかし、中をそっと覗き込んだ私は愕然としました。
――隊員がマシュマロ班だけを狙ってる!
ハエトリグモは肉食恐竜のように、動くものだけを狙っています。何度も容器に飛びつき、元気に飛び回る餌を獲ろうとしては、ガラスにぶち当たっています。石のようにじっとして隠れているバナナ班など眼中にありません。まるで『ジュラシック・パーク』さながらの光景です。
――しまった! これでは隊員が不毛な動きをするばかり。体力を弱らせてしまう!
私は焦りました。迷った挙句、マシュマロ班の容器の蓋を開放することにしました。この後、私の人生観を揺るがすような出来事が起こることなど想像もできずに。
続きます。