おかげさまで隊員(ハエトリグモ、メス)は無事にいつもの陣地に戻ってきました。斜め上からすごい視線を感じて見上げると、隊員は天井の梁をつたい、テレビの裏側へと移動しているところでした。ひとまず、ほっとしました。
さて、昨夜の失敗について書かねばなりません(ここから先は昆虫の話になります、ごめんなさい)。冬に隊員が餓死するのはいやなので、私は餌となる小さな虫をガラス瓶で飼育することに着手したのです。餌となる虫の餌は、バナナ。
しかし、バナナは日にちが経つと表面が黒ずんでシワシワになり、虫の姿が見えづらくなります。しかも、虫たちは柔らかいバナナの表面から、中に潜っていっているようでした。
――バナナの中で冬を越すつもりか?
餌が冬眠するなら仕方ありませんが、いったい何が起きているのか、せめてガラス越しに見て確認したい。そのためには「餌の餌」の表面は劣化せず、白っぽいままが望ましい。そこで考えたのがマシュマロです。ガラス容器を二個にして、「バナナ班」と「マシュマロ班」に分けました。
不思議なことに、マシュマロ班の虫たちは、ものすごく活発に動き続けています。さっさと餌と一体化してしまったバナナ班とは大違いです。
――マシュマロには神経を興奮させる物質でも入っているのだろうか?
それはダージリン紅茶の風味のマシュマロです。取り立ててマシュマロが好きではない私でも、あっという間に一袋食べてしまう、クセになる商品。
――やばいわ。私、残りのマシュマロ、全部食べてしまったわ。
マシュマロ班の昆虫は時折じっとマシュマロの表面に座ったり、また走り出したりしています。白っぽくて四角い形状のままですから、虫たちの動きが観察しやすい。
私はバナナ班がうとましくなってきました。黒ずんで凸凹になり、どんどん干からびて小さくなっていくバナナのかけら。容器の外から見ていると、まるで見知らぬ惑星を眺めているかのような気分です。その惑星にある石ころのように、おそらく、餌となる虫がいる。石のように動かずに。
――隊員がこれらを食べてくれたら、バナナ班は心おきなく廃棄できる。こんな醜いシワシワなバナナとは、おさらばだ。
私は身勝手にも、そう考えました。それは大きな間違いだったのです。
次回に続きます。