映画『ノマドランド』をオンライン配信で見ました。社会の経済破綻で仕事も家も失った高齢女性がキャンピングカーをすみかとし、働き口を求めて全米各地を移動する現代の"ノマド(遊牧民)"の物語。
地味な映画です。ただ、国土の広大さが、しーんと胸に染み入ります。その、あまりにもだだっ広い空間の中で、家を失った人々が焚火を囲んで集い、助け合い、またそれぞれに行き先を求めて散っていく。
基本的に、他人を引き留めようとする人はいません。そして、去る時もさようならは言わない。またどこかで会うかもしれないし、事実、またばったりと会うから。
そういう意味での、ゆるい大家族。
すごくアメリカらしいというか、アメリカという国が生み出したスピリチュアルな映画だなと思いました。
この映画では「AAミーティング(Alcoholics Anonymous:禁酒会)に行けば、その町がどんな町かがわかる」というセリフが出てきます。本当にそうなんですよね。家族に打ち明けられないようなアルコール依存の問題を抱えた人々が全米には相当な数がいて、地区ごとにミーティングが開かれているのです。それはもう、すごい数。
どこからともなくミーティング場に現れて、コーヒーとドーナツ片手に思いを語り、参加者全員がそれを聞き、ミーティングが終わればみなまた散っていく。この映画で描かれる"ノマド"の人々もそんな感じです。
他人を、仲間を、引き留めない。でも、集えば結束する。何が? 魂が? もしかしたら、そうなのかも。
『ノマドランド』は砂漠の荒涼とした風景もあいまって、「これは主人公が三途の川で見ている幻の光景です」と言われても信じてしまえそうです。生きてる人たちの物語なんですけど、誰もが死を身近に感じているので、みんな霊に見えてきそうなのです。霊が生きてる。
原作本がありますけれども↓ 長期にわたる取材に基づくノンフィクションです。
社会現象の中での人々の生活様式。淡々としたその描写。そこから魂のあり方が浮かび上がるように見えてきます。死者の霊のように自由に浮遊しながらも、生きる肉体としてグラウンディングする人々。
今後ますます、こういうコミュニティは増えていくでしょうね。私はキャンピングカーで移動はしませんが、"ゆるい大家族"の感覚はすごくあります。