冥界でイナンナは死体にされてしまいます。地上では、出かけたきり帰ってこないイナンナを従者が心配していました。
地上の従者ニンシュブルは三日三晩経ってもイナンナが帰らないので命令を実行に移しました。丘の上で泣き、玉座の間でも太鼓を叩いて苦しみ悶え、神々に助けを求めました。
ついに、意外な使者が冥界に送り込まれることになります。かわいいというか、小汚いというか......とても身近な、ちいさなもの。土人形みたいなものです。
父神エンキは右手の爪の垢からクルガルラという泣き女、左手の爪の垢からガラトゥルという神官を作り出し、それぞれに生命の草と生命の水を持たせました。冥界に送り込まれると、小さな体の二人は扉の裂け目をするりとくぐり抜けました。
・・・「するりとくぐり抜ける」というのが、最高にいい感じですね。いかにも「助けに来たぞ!」という気負いがありません。おもしろいビジュアルが目に浮かびます。
一方、冥界ではあのエレシュキガルが、むくんで張ったおなかを抱えて苦しんでいます。
冥界ではエレシュキガルが伏して泣いていました。「ああ、胸が苦しい! おなかが苦しい!」小さな泣き女と神官は共に泣きました。「苦しいのですね、女主人様、ああ、胸が。苦しいのですね、女主人様、ああ、おなかが」
説教も説得もせず、ただ彼女の言葉をくり返して言う土人形。こんなシンプルなことが心を癒す時もあるのです。
エレシュキガルは驚いて顔を上げました。こんなふうに同情してくれる人は誰もいなかったからです。
エレシュキガルの心の闇に、ちっちゃな光が差しました。そして・・・
エレシュキガルは感謝して、「あなたがたの願いを何でも叶えてあげましょう」と言いました。
土人形たちは「イナンナを生き返らせてほしい」と頼み、あっさり成功します。そして見事、地上に連れ戻すのですが、それと引き換えに恐ろしい条件を突きつけられるのでした。
次回に続きます。