冥界ではエレシュキガルが伏して泣いていました。
「ああ、胸が苦しい! おなかが苦しい!」
光に満ちた地上の女神イナンナとは正反対に、姉のエレシュキガルは地底の闇で苦しんでいました。
死=安らかな眠り、とはいかないようです。というのも彼女は突然生きる活力を奪われ、追放されてしまったからです。
姉エレシュキガルは穀物の女神として明るい結婚生活を送っていました。
ところが未亡人になると冥界に送られ、子も産めなくなってしまいます。
出産できない――これは女性にとって、とても大きなことです。
しゅっさん、という言葉を思い浮かべるだけで身体の奥の奥、時空を超えた深い奥底で何かを感じます。
この不思議な感覚、男性も研ぎ澄ませれば似たようなものを感じるかもしれません。「女は勘が鋭い」というのはこういうところから来ているのかも、と思います。
でも、その奥底に抱えるものが命でなくて死である時、その苦しみはどれほどのものでしょう。血を流して苦しむというよりは、空虚で乾いていて、音も光もない闇をさまよう苦しみかもしれません。
何もしたくない、生きてさえいたくないと思う時――誰もがエレシュキガルの住む世界を感じることでしょう。
死者の魂を飲み込み、草木も死に絶えた闇で泥水をすする日々。
肌はくすみ、目はどんよりとして、がらんとした青いラピス・ラズリの城で暮らしています。
頭が獅子の姿で仔に乳をやり、冥府イルカラ(塵の家)から
三途の川をじっと見ることもあります。
(『世界を創る女神の物語』ヴァレリー・エステル・フランケル著、拙訳)
死の国でむなしく過ごす姉エレシュキガルと、死とはどういうものかを思い知るために死体にされてしまった妹イナンナ。どちらも幸せとはいえませんね。
姉妹を助けに、意外な使者たちがやってきます。
次回に続きます。