新しい自分の作り方

オーラや生体エネルギー、心理学やタロット、俳優の演技や創作活動についてなど。

しかたねかろう

たまに、なつかしく思い出す言葉があります。

 

「しかたねかろう」。岡山弁です。

広島で通訳の仕事をしていた時、同じ職場の男の子が言ってくれました。

 

前の夜、私は友人と、鉄板焼でガーリックたっぷりのお肉を食べていたのです。

それをすっかり忘れ、私は元気におしゃべりをしていました。

 

はっと息を吐いた瞬間、彼は「あれ? にんにく食べた?」と言いました。

「あ、そうだった! ごめん!」と私が謝った時に、彼が言ってくれたのです。

 

 

「しかたねかろう(=しかたがないよね)」。

 

 

なんて優しい子だろう。

ずいぶん年下だったので、なんだか弟みたいな、かわいい感じもありました。

 

 

それから随分たって、

私は関西での仕事に戻り、

独力で教室を運営したりして頑張って、

でも、エゴと自分の浅はかさのために恋愛は失敗続き。

もうだめだ、と意気消沈してどん底まで落ち込みました。

 

 

そんな夜、ふと電話がかかってきたのです。

あの、岡山の男の子からでした。

 

 

「あのー、僕じゃけど」

 

 

あまりにも久しぶりで、突然すぎて、

遠慮がちなくせに図々しいほどの親しさで、

彼の声を聞いた瞬間、私は大声で笑い出しました。

 

 

「あのなあ、私な、ちょうど今、もう死んじゃいたいって思っとったとこなんよ!」

 

 

 

それを聞いた彼も、はじかれたように笑い出しました。

その後です。

 

 

 

「僕なあ、手術したんよ。甲状腺に癌が見つかって」

「大変じゃが! 私、死ぬとか言うとる場合じゃねえが!」

 

 

 

また、二人でしばらく笑い続けました。

たぶん、お互い、泣きながら笑っていたのだと思います。

 

 

普通なら、怒ってもいい

機嫌をそこね、駄々をこね、

僕の気持ちを考えてはくれないのかと

私を批判し、責めて当然の状況にあっても

彼は彼のままでした。

 

 

「しかたねかろう」と

さらりと相手を許せる彼でした。

 

 

あれから何十年経っても、頭が上がりません。

 

 

癌がたびたび再発し、

何度か手術をした後も、

遠いところを遊びにきてくれて、

また、久しぶりにぽろっと電話をくれたりして、

ある時は

 

 

「体温の調節がしにくいんよ。

クーラー効いた部屋ですごく寒くなったりする」と。

 

 

私は励ましの言葉も見つからず、

「そうなん、女の子みたいじゃなあ」と言いました。

そしたら彼も「そうじゃ、女の子みたいじゃな」。

 

 

病気を抱えて生きていく人との

なにげないやりとりは、

なにげないようでいて、

とても、とても深いです。

 

 

彼の名前は、ばんり君といいます。

本当はみつぐ君なのですが、いつからか彼が自分のことをばんりと呼び始めました。

飼い猫の名前が、ばんりちゃんでした。

猫のように甘えたい気持ちがあったのか、

万里という壮大な名前にあやかりたい気持ちがあったのかは

わかりません。

 

 

今頃どうしているかしら。

彼をいじめる人がいたら

姉ちゃん許さないからね、なんて思います。